三次元動作分析装置を用いた、四肢の動きの定量的評価の研究
三次元動作分析装置と床反力計を用いた計測風景
縄跳び動作時における、義手装着時の左右差を評価
リハビリテーション部
藤原 清香 先生
Question 1:共同研究の概要について教えてください。
小児が義肢を装着し、縄跳びなどの運動をしたときの左右差の評価を三次元動作分析装置で測定しています。リハビリテーション医学は、活動の医学と言われているように、ヒトの動きをどう評価するかがテーマになります。
例えばヒトが動いて、正常に歩行できているか、良い動きをしているかなどがあります。患者さんに対して、ストレスになるような検査は非常にしづらいのですが、これまでの動作分析は、様々なマーカーをたくさんつけ、部屋を遮蔽してパーテーションで空間を区切るなど、準備に1時間ほどかかっていました。機械操作も難しく、患者さんへの負担も大きいものでした。
東京大学医学部附属病院のリハビリテーション部では、障害を持っている小児のリハビリテーションも行っているので、小児の動作分析は課題の一つでした。子供たちは、慣れていない場所に行くと、緊張していつもと同じ動きができず、パフォーマンスが出なくなってしまいます。ましてや準備に1時間なんて、臨床場面での実施は非常に困難です。
Question 2:研究の成果について教えてください。
目指していたのは、普段の訓練で慣れた環境でスムーズに評価ができることです。この共同研究で、子供が普段訓練をする部屋での動作分析が可能となりました。
アニマさんと協力して一緒にマーカーの取り付け方法なども工夫し、素早く準備ができるようになったことで、子供へのストレスも格段に減りました。
Question 3:今後の展望について教えてください。
現段階では、少なくとも、小学生ほどの年齢であれば、問題なく測れます。ただ、3歳前後、ましてや障害のある子供は、興味がそれやすいので、一箇所でじっとしているのがなかなか難しいという問題があります。
今後は、それくらいの年齢の子供も、問題なく測れるようになればと思っています。また、子供たちの評価だけでなく、義肢の研究にも活用していきたいです。義手の操作を三次元で評価することは、海外でもまだ少なく、効率の良い動きや、上達していく過程が客観的にわかれば、訓練の仕方や目標が明確になります。
三次元動作分析装置による解析は、リハビリテーションのゴールを科学的に実証できる、有効な手段であると思っています。
床反力計設置風景
三次元動作分析装置を用いた頚椎の可動域計測
整形外科・脊椎外科
加藤 壯 先生
Question 1:共同研究の概要について教えてください。
頚椎が屈伸・側屈、回旋でどの程度動くのかという可動域計測について研究をしています。これまで、頚椎の可動域は生活の中で重要とは知られていましたが、客観的な計測データが乏しいのが現状です。
計測方法の1つとして、レントゲンで頚椎の配列の角度差を捉えることで研究に活用してきましたが、患者さんが被曝するデメリットがあります。
また、医師の指導のもと行うわけではないので、再現性が高くない可能性があります。さらに、回旋の動きは、レントゲンでの計測は難しく、CTを撮らざるを得ません。すると、被曝量がもっと大きくなるので検者の目視で判断することが慣習的に行われてきました。
頸椎の可動域の計測風景
Question 2:三次元動作分析装置を用いたことによる変化や、患者さんの反応について教えてください。
三次元動作分析装置による研究では、医師が指示を出しながら検査できるので患者さんが限界まで動作を行っているかを確認しながら計測することができるようになりました。
患者さんはヘルメットをかぶるだけで、計測自体は30〜40秒程度、解析は5分程度で数値が出せます。回旋の動きも定量的に計測することが可能になりました。数値で可動域の改善を実感できるので患者さんにもわかりやすいと思います。
Question 3:今後の展望について教えてください。
現在は、計測の再現性を確認をしている段階ですが、症例を積み重ねれば、手術前後の可動域の変化や、可動域と生活の質の関係についてもわかるようになるので、今後は、この計測を様々な疾患の患者さんに適用したいです。
頚椎の手術といっても様々な種類があります。骨を削ることもあれば、インプラントを入れることもあります。
今後、また新たな手術方法が出てきます。どれくらいの規模の手術で、どれだけ可動域に変化があるかを明らかにすることで、患者さんにとってベストな手術を決めるための一助になればと考えています。そして、頚椎だけでなく、腰や胸椎など、体幹の可動域に応用できれば有用性が高まると考えています。
健常者に対する模擬義手を用いた動作の評価
リハビリテーション部
西坂 智佳 先生
Question 1:共同研究の概要について教えてください。
三次元動作分析装置を使い、義手を使用中のヒトの動きを評価しています。具体的には模擬義手を装着してもらい、義手の操作機構の違いによる、使いやすさや動作の違いを研究しています。
例えば、ケーブルを引っ張ると手先が開く機構の場合は、力を入れなくても把持していることが可能ですが、一定の握力しか出せません。一方、ケーブルを引っ張ると手先が閉じる機構の場合、強い力での把持が可能ですが、それを維持するためには持続的に引っ張り続けなくてはいけません。
また、義手を使用した動きが上達する前後での動きの違いや、同じ動作を正常手でした場合と義手でした場合の、体幹や肩などの動きの違いについて評価しています。
Question 2:研究の成果について教えてください。
現在は、健常者に対して模擬義手を使った動作の研究を行っていますが、効率のよい動きや上達するコツなどが明らかになれば、今後、実際に義手を使うヒトに対しての指導に生かすことができます。
ある動作をする際に、体幹を傾けた方がいいのか、それとも肘を曲げた方がいいのか、手先を開く方が使いやすいのか、閉じる方が良いのかなどに着目しています。
これらをもとに、より患者さんの生活にあった機構の義手を処方することができますし、患者さんから動作の相談を受けた場合にも、有効なアドバイスができると思います。今後はこうした実績を増やし、リハビリテーションの指導につなげていきたいと考えています。
能動義手の計測風景
能動義手の計測データ
東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部
さまざまな機能障害や日常生活上の障害を持つ方々に、疾患に応じた機能訓練や日常生活指導による障害の軽減から社会復帰の援助まで総合的な診療を行っています。
リハビリテーション部 講師
藤原 清香 先生
専門分野:小児リハビリテーション、障害者スポーツ、義肢装具、整形外科
整形外科・脊椎外科 助教 医局長
加藤 壯 先生
専門分野:脊椎・脊髄外科(脊柱変形、頚椎疾患)
リハビリテーション部 医師・大学院生
西坂 智佳 先生
専門分野:リハビリテーション医学
アニマ株式会社
AI研究開発部 課長
牛久保 智宏