ミュータスの導入事例:介護予防はまず自分の身体について知ってもらうところから 杏林大学保健学部理学療法学科の取り組み

筋力計ミュータスの介護予防事業への導入事例

介護予防はまず自分の身体について知ってもらうところから

杏林大学保健学部理学療法学科の取り組み
東京都三鷹市にキャンパスをもつ杏林大学は近年、「新しい都市型高齢社会における地域と大学の統合知の拠点」というテーマを掲げています。なかでも保健学部理学療法学科は、三鷹市井の頭地区における介護予防事業や、ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)予防の啓発活動を展開し、着実な成果をあげています。事業を率いる理学療法学科で、「筋力計ミュータスF-1」はどのように活用されているのでしょうか。三鷹市の地域と杏林大学が連携して行っている介護予防事業はいくつかありますが、なかでも理学療法学科が平成29年度に関わった介護予防事業「はつらつ体操井の頭」では、一定期間の実施後にほとんどの参加者の筋力の改善が数値として確認でき、また「歩くのが辛くなくなった」などの感想も多々あったそうです。

地域のイベントでミュータスによる筋力測定を実施

「はつらつ体操井の頭」について少し詳しく説明します。これは地域と大学、リハビリ専門職の連携による介護予防事業の一つで、高齢者に週に1回、3ヵ月12回を1クールとするトレーニングに参加していただき、その効果検証を行うというものです。昨年度は3クール実施して延べ69名の高齢者が参加しました。平均年齢は81.2歳(67歳〜92歳)で、これは全国で行われている同じような事業の報告と比較してかなり年齢層が高く、その幅も広いといえます。

プログラムでは各クールの第1回と第11回に測定会を実施しています。測定項目は握力、膝伸展筋力、立位バランス、立ち上がりテスト、4m歩行速度などで、この数値が3ヵ月のトレーニングの結果、改善したかどうかが本人に数値でわかる仕組みです。この数値で改善が確認できるということが、参加者のその後の運動の習慣化を大きく左右するようです。

ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)という言葉は近年、マスコミなどで取り上げられる機会が増えてきたとはいえ、メタボリック・シンドローム(メタボ)に比べればまだまだ認知度は低くとどまっています。しかし健康寿命を延ばす上で、ロコモ予防の重要性を高齢者に理解してもらうことは欠かせません。

「地域住民の皆様にロコモティブ・シンドロームの予防啓発を図る上で、ご自身の身体機能を知っていただくことは非常に意義が大きい」という認識が、杏林大学保健学部理学療法学科では共有されています。

地域の施設での計測には、計測器の持ち運びが容易であることが必須

身体機能を客観的な数値で知るのに欠かせないのが筋力計です。なかでもハンドヘルドダイナモメーターを測定に用いている理由を理学療法学科の関係者にうかがいました。

「膝伸展筋力の計測は、歩行やバランスに不安を感じる方々にとって大きなインパクトを与える評価であるとともに、多くの研究報告による科学的根拠による裏付けがしやすい評価指標です。
ハンドヘルドダイナモメーターを用いた計測を行う場合、固定ベルト方式を用いた方が安定して信頼性の高いデータが計測可能でしょう。なかでも使用実績が多く、以前より本学の付属病院でも導入していたミュータスF1が最適であると考えました。

また、地域事業を行う上ではとくにコンパクトで持ち運びが容易であるということも重要なポイントです。さらに今回の事業では、スタッフとして理学療法士1名、保健師3名のほか、学生とサポーター3名ずつに参加してもらいましたが、ミュータスF1は操作が容易で、学生でも計測ができます。その点も測定器の選定基準の一つでした。データの信頼性に加え、コンパクトで操作が容易、またデータの表示がわかりやすいなどの特性を総合的に考えて、ミュータスF1によるデータを我々のロコモ予防事業の測定指標として用いることにしました。」(理学療法学科関係者)

「歩くのがラクに!」の実感に加えて、数値の改善が運動継続のモチベーションに

「はつらつ体操井の頭」に参加した地域住民のほとんどは、膝伸展筋力を計測した経験がなく今回が初めてだったそうです。そういう方々に対して、実際に計測したデータを先行研究のデータと照らし合わせながら各個人の筋力についてお伝えすると説得力が大きく、日々のトレーニングに対する意識が向上したようでした。また3ヵ月間のトレーニング後、その効果について膝伸展筋力の客観的評価をもとに説明すると、自己効力感が高まり、その後の運動習慣の形成につながると期待されています。

「はつらつ体操井の頭」のトレーニングの内容は自重負荷での筋力増強練習、ストレッチング、エクササイズバンドによるレジスタンストレーニングなど。毎回60分、そのような体操を行い、30分のミニ講座が組み合わされます。このプログラムを3ヵ月続けた結果、膝伸展筋力などの各測定値の平均値は有意に改善しました。

参加者は日常生活に問題のない方から要介護2の方までと、年齢層だけでなく身体機能にもかなりバラツキがありましたが、多様な後期高齢者に対して集団介入であっても対象者ごとに負荷量の調節を図るなど適切な指導を行えば、筋力・バランスの改善は可能であるということがわかりました。


参考)地域・大学・リハビリ専門職の連携による介護予防事業の効果検討
杏林大学保健学部理学療法学科 門馬 博 先生
杏林大学CCRC研究所セミナー
2017年12月20日

 

参加者からは、腰が痛い、膝が痛いといった訴えに加えて「昔はゴルフが得意だったのに」とか、「計ってみたら、思っていたより筋力がなかった」などと嘆く声も。それが、プログラム終了頃になると、「歩くのがラクになった」、「またゴルフができそう」という嬉しい感想に変わることも多く、なかには途中からスタッフになったという例もあったということです。

介護予防だけでなく、小学生から筋力測定を!

事業を通じて、年齢や身体機能がさまざまな集団への3ヵ月間の介護予防介入によって、身体機能および移動困難感が有意に改善することが明らかになり、また移動困難感の改善によりその後の活動の幅が広がってQOLの改善も期待できることがわかったといえます。

現在、介護予防をはじめとした総合事業(介護保険法では、「介護予防・日常生活支援総合事業」として定められている)は、各自治体がモデルを構築し、運営を担うことになっています。
医療福祉施設だけでなく、今後は地方自治体においても総合事業における客観的な効果判定指標を用いて、費用対効果の高い分析を行うことが重要であると思われます。

杏林大学保健学部理学療法学科では、今後は総合事業に関わる方々にも膝伸展筋力の計測の重要性を知っていただき、多くの地域住民の方に筋力が計測できる機会を多く設けて自身の健康に目を向けて頂きたいと考えているそうです。
そのような意図から、コミュニティセンターなど自治体施設や商業施設でのイベントのようなさまざまな場にミュータスF1による筋力計測のコーナーを設けて、まずは色々な人に筋力を計ってもらう機会を設けているということです。

筋力を客観的数値で知ることがロコモ予防の観点から高齢者にとって大切なのはもちろんですが、理学療法学科の関係者の方々はもう一歩踏み込んで、世代を超えて筋力に対する関心をもってもらいたい、とも強調しています。

「たとえば、小学生。小学生の運動不足による弊害は色々と言われていますが、転びやすい、骨折しやすいなどはまさに筋力低下の問題と深刻に結びついています。学齢期の子ども達が自分の身体を自分で管理するということを学ぶきっかけとして、従来の体力テストに膝伸展筋力の測定も加えられれば理想的だと思いますが、そういう流れを作っていくためにも、地域と連携の上、さまざまな世代、さまざまな身体状況の方に筋力を計測する機会を増やしていきたいと思います。」(理学療法学科関係者)

ミュータスのさらなる発展に期待

高齢者への介護予防やロコモ予防はもちろん、学齢期の子ども達を含む幅広い世代に対して膝伸展筋力の測定値を客観的に知らせることで、長いスパンで健康寿命の延伸を図りたいという杏林大学保健学部理学療法学科。

膝伸展筋力の計測には、ベルト方式で再現性に優れ、高精度なアニマ㈱のミュータスF-1が採用されています。ミュータスは日本人の年齢別健常値データで裏付けられた等尺性筋力計のスタンダードです。その信頼性は多くの文献で示されています。

「データへの信頼性が高い上にコンパクトで操作性が良いミュータスF1の活用を今後とも図るとともに、ミュータスF1へのさらなる発展を期待します」というアニマへの心強いコメントも頂きました。

 

学校法人杏林学園 杏林大学
保健学部理学療法学科
http://www.kyorin-u.ac.jp/
所在地:東京都三鷹市下連雀5-4-1

掲載日
カテゴリ
事例インタビュー, 筋力計シリーズ
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